より適切な段取りを組む方法

概要

「段取り八分仕事二分」は、準備段階で段取りをしっかりと行っておくことで、仕事の8割は終わっているとする諺ですが、いつ、何を、どうすればよいかについては語っていません。実際に、我々は、段取りをどのように組んでいるのでしょうか。段取りを組むための理論はドメイン知識に影響しない形で表現可能であり、他者に継承できます。

用法

上司から、「リリースしたソフトウェアに市場不具合が発生しているので、再発防止を検討して欲しい」と言われたとします。さて、このようなとき、何をどのように考えていけばよいでしょうか。段取りを組むための理論を図1に示します。後述する(1)と(2)を行うことで仕事の段取りを組むことができます。

図1 段取りを組むための理論

(1) 達成したい目標に対して、達成に必要なタスクを目標から逆算して挙げていく。

目標から逆算する方式は、バックワードと呼ばれます。バックワードでタスクを洗い出すときのポイントは、次の2点です。

・このタスクの直前に実行するタスクは何か。
・そのタスクの他に実行するタスクはないか。

(2) 挙げたタスクを時間順に沿って実行することが目標を達成するための手順となるかを検証する。

検証するときは、前から行います。これはフォワードと呼ばれます。フォワードで検証するときのポイントは、次の2点です。

・このタスクが完了したら、次のタスクに移れるか。
・このタスクの完了が、別のタスクの開始条件になっているか。

本事例における段取りの変遷を図2に示します。図2(a)は、再発防止を目標に置き、上記(1)、(2)の順番で段取りを組んだ状態です。これでも目標は達成できるかもしれませんが、市場でソフトウェアを利用している顧客は再発防止策が講じられるまで待たないといけません。困っている顧客に向けて、短期的な対策を講じることが望ましいでしょう。改善を入れたものが図2(b)になります。

さらに、忘れてはならないことは、設定した目標は適切なものかどうかということです。再発防止を行うことを目的とすると、再発防止策が実行されることで目標は達成されることになります。しかし、より望ましいのは、再発防止策が実行された結果、以前よりも状況が改善されていることです。図2(c)のように、設定する目標を修正することで、「新たな計画、目標値を設定する」というタスクが追加され、市場不具合対応のサイクルとしてもより強力なものにできます。

図2 市場不具合対応の段取り

効能

目標の達成に向けて、必要なタスクを適切な順序で抽出できます。特に、抽出したタスク以外のタスクの存在が明らかになったときに、想定とのギャップが生じたことが分かる点は大きな効能です。

目標達成の最短ルートを決めることができます。これは、用法(1)を先に行い、次に用法(2)を行うことでより確実に保証できます。

思い込みや惰性に基づく段取りの作成から抜け出すことができます。経験者一人で行うこともできますが、経験者と未経験者が一緒になって取り組むことで、新たな視点での列挙や検証が行われ、必要十分なタスクを整理しやすくなります。

作成した計画に基づいて進捗を管理することで、達成したい目標から逆算し、現在の行動をコントロールすることができます。残り時間がどの程度あるかを意識して作業を進められるので、進捗管理の精度も高まることが期待されます。

注意

図3に示したように、最初から完璧な計画をつくることは難しいです。一般に、初期に策定した計画Xは、新たな情報を入手したり、置かれている状況が変わったりすることによって、時間の経過とともに計画Y、計画Zのように詳細化されていきます。検証を重ね、タスクの過不足を見直すことで改善していくことになる点は、注意が必要です。タスクの過不足が明らかになったとき、そのタスクに関する視点を十分に持てていたか振り返る価値はあるでしょう。

図3 計画の進化

仕事のスコープ全体をそのまま管理することは難しいので、ある程度のかたまりに分割し、体系化する方法にWBS(Work breakdown structure)があります。本記事ではWBSを構成するワークパッケージの段取りをどのように組むかが主な関心事です。追加要求や仕様変更の発生により段取りを組み直すといった状況はスコープマネジメントの範疇であるため、段取りの組み方とは異なる問題である点は区別する必要があります。

参考文献

計画策定のための構想力と計画遂行のための実行力を強化したい読者には文献[1]を、プロジェクトマネジメントの観点で計画を理解したい読者には文献[2]をお勧めします。

[1] 加藤昭吉, 『「計画力」を強くする』, 講談社, 2007
[2] 後藤智博, 渡瀬智, 西郷智史, Project Management進化論, プレジデント社, 2022
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