概要
提案、説得、交渉など、他者に働きかけて現実解を見出す場面では、相手に響くメッセージを伝える必要があります。ありたい姿と現状のギャップを埋めることで仕事は進んでいきます。そのために伝えるべきメッセージはどうやって導けばよいのでしょうか。
用法
上司である部長に、年間施策である組織活性化活動の中間報告をすることになりました。このとき、報告内容をどのように組み立てていけばよいでしょうか。ポイントは、相手が聞きたいことを話すということになりますが、うまく組み立てないと自分が言いたいことだけを話す報告になりかねません。このようなときは、下記の手順で自分自身にフィードバックをかけていくとよいでしょう。
(1) 現状を把握する。
目標によって現状をよりよい方向に進めるために、現在自分が置かれている状況を整理します。
(2) ありたい姿を描く。
今回の一連の取り組みを終えたときに望ましいと思える状況を言語化します。
(3) ギャップを認識し、目標を設定する。
(1)と(2)の乖離を埋めるために、どのような行動を取る必要があるかを考えます。
(4) 目標達成に向けて行動する。
(3)で導出した行動を実践します。
(5) 想定と結果を照合する。
行動した結果が想定と比べてどうだったのかを整理します。成功、失敗に関わらず、その結果が起こった要因を考え、次回の行動につなげるための教訓を抽出します。
(6) (1)~(5)を繰り返す。
(1)~(3)がメッセージを導出する手順で、(4)~(5)が導出したメッセージを実行した結果を評価する手順です。これらの手順のうち、(3)がメッセージを構成する主な要素になります。プレゼンテーションをしたときに、聞き手に「つまり、何が言いたいのか」と言われるときは、(3)が明確に表現されていないことが主な要因と考えてよいでしょう。(1)~(5)の手順は図1のようにテンプレート化できます。

図1に本事例を当てはめたものが図2です。部目標を目指してよりよい状態に向かっているというありたい姿に対し、現状は、計画策定は済んだものの施策実行には至っておらず、ギャップが存在しています。このギャップを埋めるために、部長への中間報告では、部ならではのアプローチが見えてきたことを伝え、部長からどのような反応が返ってくるか、部長にどのような印象を残したいのかを事前に想定しておきます。報告会終了後、想定と結果を比較すれば、メッセージが伝わったかどうかを検証することができます。

効能
図1を用いて準備することで得られる効能を3つ挙げます。第一に、より明確なメッセージを導出できます。システム構築の変更要求対応を例にメッセージを構成したものが図3です。このように、様々なシーンでメッセージ導出の手順は適用可能であり、実際に適用することで相手に伝えたいメッセージが明確になります。

第二に、提案、説得、交渉など、他者に働きかけて現実解を見出す場面の主導権を握ることができます。相手に期待する反応や相手に残したい印象を事前に想定しておくことで、意図を持って相手とコミュニケーションをすることになり、会議やプレゼンテーションの質も高まるでしょう。
第三に、アクションを実行した後の結果と比較することで、改善のループを回すことができます。結果が想定に達していなければその理由をもとに、次の機会に向けた改善策を考えることができます。結果が想定以上のものであっても理由を振り返ることで、成功事例の要因を明確にすることができます。
注意
「伝わったことが伝えたことである」という言い方があるように、伝えたいメッセージが必ずしも受け手に伝わるとは限りません。本記事では、メッセージの送り手側のエンコーディングについて述べましたが、同時に、メッセージの受け手側のデコーディングも存在します。受け手がどのようにメッセージを解釈するのかを送り手が完全にコントロールすることはできません。そのため、送り手は、より明確なメッセージの導出に加えて、プレゼンテーションの技術も活用して、伝達することが必要になります。
参考文献
日々の自分の仕事で行動の質を高めたい読者には文献[1]を、成果物の質を高めたい読者には文献[2]をお勧めします。
[1] 井坂康志, 『自らをマネジメントするドラッカー流「フィードバック手帳」』, かんき出版, 2016 |
[2] 芝本秀徳,「誰も教えてくれない書くスキル」,日経BP社,2016 |