概要
ある特定の状況において、ある目的を達成する手段のことを「方法」と定義します。このとき、方法を決めるためのパラメータは2つだけになります。「状況」と「目的」です。これらのパラメータをもとに方法の有効性を決めていく考え方が方法の原理です。
方法の原理 方法の有効性は状況と目的から規定される。 |
もともとは、価値観や世界観、認識の違いから生じている対立の解消を目指して考案された構造構成主義で説明される原理ですが、理論の汎用性が広いため、様々な領域で応用が可能です。
用法
上司から、「今度の定例会議で○○についてプレゼンテーションして欲しい」と言われたとします。さて、この場合、どのようなプレゼンテーションをすればよいでしょうか。方法の原理を適用すると、次の(1)~(3)の順番で考えることになります。
(1) 状況を整理する
どのような場所でプレゼンテーションを行い、誰が聴衆なのか。聴衆の関心がどのようなところにあり、話を聴くモチベーションはどの程度あるのか。他にプレゼンテーションをする人はいるのか。いるとすれば、そのテーマは何か。
プレゼンテーションの内容に関して、聴衆はどの程度の知識を持っているか。対して、自分はどの程度の知識を持っているか。
このように、プレゼンテーションを行う環境や聴衆の状況、自身の状況を確認することで、状況を整理することができます。
(2) 目的を整理する
上司がプレゼンテーションに期待していることは何でしょうか。聴衆に対する情報共有でしょうか、聴衆の行動変容でしょうか。あるいは、上司に、頭の中にある何らかの構想と今回のプレゼンテーションを関連させ、何かやりたいことがあるのでしょうか。
単に、自分が取り組んできたことをプレゼンテーションする、自分の話したいことをプレゼンテーションするという方針で臨むと、プレゼンテーションをすること自体が自己目的化する状況が待っています。
(3) 状況と目的に応じて方法を決める
「課や部の定例会議で、部員や課員に働きかけ、その後の一人ひとりのアクションにつなげて欲しい」、「経営層が集まる審議の場で、意思決定に必要な情報を提供して欲しい」、「社外のイベントで消費者に対して会社の取り組みの認知度を高めたい」など、状況と目的を整理すると、必要なプレゼンテーションのあり方が見えてきます。その上でプレゼンテーションの中身を検討すれば、効率的、効果的、かつ魅力的なプレゼンテーションにつなげる確率が高まります。
「この方法は置かれている状況で目的を達成するために最適な方法だろうか」と問うことで、状況や目的を改めて確認することができます。そして、「他にも方法があるのではないか」と問うことで、採用しようとしている方法へのこだわりや思い込みがないかを確認することができます。
効能
方法の原理を用いることで、方法の良し悪しを評価することができます。その際、状況と目的という2つのパラメータが有効性評価の観点になります。想定していた方法がうまくいかないことが分かれば、「どうすればうまくいくか」という問いが生まれます。
意思決定やディスカッションの場で、方法ありきという雰囲気を感じたら、方法の原理を使って考えてみましょう。インプットすれば適切なアウトプットを検討することができます。いつ、いかなるときにも例外なく成立する普遍性を持っています。これが「原理」のパワーです。
注意
状況はより正確に把握することが大事です。状況把握を誤ると、導き出される方法も有効でない可能性が高まってしまいます。
導いた方法には実現可能性があることが必要です。そうでないと、絵に描いた餅に終わります。
ある状況とある目的から導いた方法は、別の状況や別の目的に対しても有効であるとは限りません。むしろ、方法は柔軟に変わるものだと心得る必要があります。
参考文献
全ての方法に当てはまる共通原理を哲学の理論体系で論じる構造構成主義に興味があれば文献[1]、新書で要所を理解したい場合は文献[2]をお勧めします。
[1] 西條剛央, 「構造構成主義とは何か 次世代人間科学の原理」, 2005, 北大路書房 |
[2] 西條剛央, 「チームの力-構造構成主義による”新”組織論」, 2015, ちくま新書 |