概要
SWOT分析をしても納得感が薄かったり、分析で終わってしまい実行が伴わなかったりした経験はないでしょうか。フォーマットに安易に埋め込むと、競合の弱みが自社の強みに入り、競合の強みが自社の弱みに入ることになります。その結果、競合と似た戦略が導出されかねません。
S(Strength)、W(Weakness)、O(Opportunity)、T(Threat)は、単に思考を整理するためのフォーマットではなく、発想の視点を与えてくれるものだという理解のもとにSWOT分析を行うことが大事になります。
用法
上司から、「部内で商品化プロジェクトのリーダを育成する企画を考えて欲しい」と言われたとします。このようなとき、上司が「ぜひやりたい」と思えるような企画をどのように考えていけばよいでしょうか。
顧客分析から始めることで、効率的なSWOT分析を行うことができます。具体的には、図1の①~④の順番で進めます。図2は、今回の企画について分析した例です。


① 顧客のボトルネックを発見する
育成対象は自部署の部員であり、一般的には課長が課員に対して人材育成を検討することが多いでしょう。しかし、今回のような依頼がきたのはなぜでしょうか。上司が考えればよいことではありますが、考えられない事情があるのではないでしょうか。ここでは、顧客を特定し、顧客のボトルネックを発見することが大事です。
今回は、上司が事業計画の遂行で忙しく、人材育成の活動にまで手が回っていないことをボトルネックとしています。
② 顧客のボトルネックを解決できる強みを明らかにする
経験者の知見を人材育成にうまく活用することはできないでしょうか。育成対象者にはどのような知識が必要で、学習や成長のためにどのような活動をする必要があるのでしょうか。ここでは、顧客のボトルネックを解決できる自社の強みが何かを明確にすることが大事です。
今回は、周囲に存在する経験者・有識者の知見が強みであり、それらを共有可能な形式知に変換し、組織内で流通させることを人材育成活動の活動に据えています。
③ 自社のボトルネックを明らかにする
今回の企画での最大のチャレンジは何か。そのチャレンジを行うことで、ボトルネックは解決するか。これらの問いに答えることで、企画の独自性や目的が明確になり、達成度確認のための指標も考えやすくなります。
今回は、育成対象者が自分ごととして育成活動を捉え、成長の機会にしていくことを最大のチャレンジとしています。そのための手段として、コーチングやリフレクションを採用しています。
④ 波及効果を考える
人材育成のしくみやコンテンツはパッケージ化することで他部署にも容易に展開できるようになります。市場における脅威をなくすとともに、自社の強みを活かせる波及効果にはどのようなことがあるでしょうか。
今回は、勉強会資料や指導の手引きといったコンテンツ、コーチングメソッド、リフレクションメソッド、活動により得られたプロジェクトリーダーの心構えがパッケージ化可能であり、横展開にも効果的だと考えました。
①~④の手順でSWOT分析を行い、導いたアクションの例を図3に示します。

効能
設定した顧客・競合に対する最善の打ち手を検証することができます。ここで重要なのは、SWOT分析は戦略を策定するためのツールではなく、策定した戦略の価値を検証するためのツールと位置づけることです。顧客や競合をどのように設定するかによって、自社の強み・弱みは変わります。そのため、どのような戦略を策定するかを決めようとしているときに、強み・弱みの認識が捉え方によって変わり得ることは、SWOT分析を用いた戦略の策定が困難であることを意味します。
戦略とは強みを活かすことだという前提を置くと、SWOT分析を行う最適のタイミングは、策定した戦略の価値を検証する場面です。
注意
必ず顧客分析を行うこと。S→W→O→Tの順番で自社の強みから分析を始めると、単にフレームワークを辻褄が合うように埋めて終わってしまう可能性があります。
中身の表現に「高品質」や「低コスト」などの抽象的な言葉があると具体的な行動にはつなげにくいです。整理ではなく分析をすることがSWOT分析の趣旨です。
参考文献
SWOT分析に関する先行研究を概観したい読者には文献[1]を、フレームワークへの向き合い方を参考にしたい読者には文献[2]をお勧めします。SWOT分析の要点は文献[3]に詳しいです。
[1] 片山富弘, 「SWOT分析に対する若干の考察」, 流通科学研究第18巻第2号, pp.65-75, 2019 |
[2] 遠藤功, 「戦略経営の教科書」, 光文社新書, 2011 |
[3] 三谷宏治, 「経営戦略全史」, ディスカヴァー・トゥエンティワン, 2013 |